はじめての医学論文査読に役立つ資料集

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最近、査読依頼を頂く機会が増えてきました。著者としてもまだまだ駆け出しにも関わらず、一息つく間もなく現れた査読の壁はとてつもなく高く感じました。

この記事では、査読初学者である自分がまず参照し、実際にいくつか査読をしてみて役に立ったと感じた資料を紹介したいと思います。これから査読に挑戦しようと思っている方の参考になれば幸いです。

はじめての査読に役立つ資料集

前提:査読依頼はいつ頃から届くようになるのか

査読者の選定基準は雑誌毎に異なると思いますが、自分は初めての症例報告を執筆した直後から症例報告/クリニカルピクチャーの査読依頼が、原著論文を執筆してしばらくしてから原著論文の査読依頼が届くようになりました。ある程度筆頭、責任著者としての経験を積み、論文指導の経験も増えてきたため1年前くらいから実際に査読を引き受けるようになりました。

査読を依頼される論文は以前自分が執筆したテーマに関連するものが多いですが、たまに自分の関心領域からかけ離れたもの(例えば歯科領域の臨床研究や背景知識のないリハビリ手法など)もあり、メールに記載されたタイトル(+抄録が添付されていることも)を読んで、テーマの背景知識や、統計解析を含む研究手法への理解度も考慮して対応可能かどうかを判断しています。

あとは知らない雑誌から依頼が来た場合はハゲタカジャーナルではないことを確認していますが、査読の経験を多く積みたいという思いもあり、可能な限り依頼に対応できるよう時間を捻出しています。

査読に挑戦するにあたって、まずは周囲の査読経験豊富な先生方にお作法を尋ねつつ、査読に関する初学者向けコンテンツを一通りググって情報収集を行いひとまず最低限の情報を収集しました。([査読 お作法] [peer review how to]みたいなざっくりしたキーワード検索でも様々な資料が出てきます)

医学論文査読のお作法

医学論文査読のお作法 査読を制する者は論文を制する |特定非営利活動法人 健康医療評価研究機構 | iHope International
特定非営利活動法人 健康医療評価研究機構[iHope International]は、医療の質や効果を科学的に評価する研究の教育と実践を通じて、医療を支える医療者を元気にし、医療を元気にし、国を支える国民を元気にすることを目指します。

どんな本?

情報を整理するために日本語の教科書も確認したいと考え手に取ったのがこの本でした。臨床研究のバイブル的入門書である臨床研究の道標の副読本シリーズで、とても馴染みやすいデザインでした。

書籍の中では査読について“最善にして唯一の学術評価手法だが、相応の責任が伴う役割である”と評しており、約160ページのコンパクトな書籍ですが、査読の意義や査読プロセスの解説に始まり、臨床研究の査読を想定した6つのステップに沿って査読のお作法が説明されています。(内容の多くは症例報告の査読にも共通するものだと感じました)

ひとまず流し読みで通読し、その後実際に査読をしながら対応する箇所を読み直す、という使い方をしていますが、知りたいことが過不足なくまとまっており、大変重宝しています。

査読を行う前に考えること

基本的なことですがこの書籍を読んで、査読を行うために
①論文を適切に評価できる
②査読を行う時間を確保できる
③利益相反がない
が重要ということがわかりました。

査読をすることによって得られるもの

正直、この本を読むまでは査読に対して「他人の論文に対して時間を割いている」という少し後ろ向きな感情がありました。しかし、この本には査読を行うメリットとして査読自体が学術貢献であることや査読を通じて論文の批判的吟味、指導力の向上に繋がるなど自らの学びにもなる、ということも書いてあり、考えを改めるとともに前向きに査読対応ができるようになりました。

他にも

「自分なら間違いのない査読ができると言い切れる研究者はいない」
「無理に背伸びするのは厳禁」
「客観的、教育的、建設的に」

など教訓的なメッセージが満載でした。

著者→査読者になるためのプロセスは?

査読者に求められる能力は「医学論文査読のお作法」でも言及されているとおりで、他人が執筆した論文を査読するので、アカデミックライティング、研究プロセス全体について相応の理解が求められるのは間違いありません。

しかし実際のところ「筆頭著者を◯本、責任著者を□本やれば査読者になれます」みたいなわかりやすい指標があるわけではないので、ある程度著者としての経験を積んだら、その後は査読者をやりながら経験を積んでいく必要があります。

外部査読以外には、リサーチカンファレンス、学会予演や共著論文などで内部査読の役割を担うことで査読のトレーニングを積むことができるので、積極的にコミットしていくのが良いかもしれません。

日本語資料

無料閲覧可能な日本語資料の中にももわかりやすいものがいくつかありましたので印象に残った文献を2篇紹介したいと思います。

査読の作法

査読の作法
J-STAGE

タイトル通り、査読を行うにあたって必須の知識がコンパクトにまとまっており、前述の「医学論文査読のお作法」を通読している余裕がない場合にはまずこちらを一読してみても良いかもしれません。

論文の序盤で「査読依頼が来たら可及的速やかに返事する」という作法が紹介されていたのが印象的でした。自分の過去の投稿経験を思い返すと、論文を投稿したもののなかなか査読者が決まらず、投稿ステータスが変わらないことにソワソワすることも珍しくありませんでした。スムーズな査読プロセスのためにも、対応の可否にかかわらずできるだけ早く返答することが重要だというメッセージに納得しました。

査読の抱える問題とその対応策

査読の抱える問題とその対応策
J-STAGE

こちらは医療系の論文ではありませんが、「1論文につき2名以上の査読体制は限界を迎えつつある」などの現代において査読が抱える普遍的な課題についてまとまっていて勉強になりました。

出版社資料

大手学術出版社はいずれも査読者用の資料を用意しています。

自分は査読を行うに当たり、まずElsevierの資料を参照したのですが、動画コンテンツも多くとても見やすかったです。

査読とAI

査読される原稿を生成AIに投入してはいけない

近年執筆におけるAIの活用法はトピックですが、現状多くの雑誌で査読におけるAIの使用が禁止されています。今後AI技術の進歩やセキュリティの強化によって活用できるようになるのは時間の問題と思われますが、知らぬうちに重大なルール違反を侵さないよう要注意です。

アカデミックライティングの様々な場面で生成AIを使用するようになった昨今、生成AI使用を禁止されたタスクはとても不便に思います。しかし見方を変えると、査読を行うときには自分で書いた英文を推敲するのと同様に原稿の隅々まで読みます。生成AI登場以降、英文を読む時間が減っていた自分にとって、査読を行うようになって改めて細やかな英語表現について考える機会が増えたように思います。

引用文献リストに要注意!?

生成AIに引用文献リストを作成させるとハルシネーションを生じる可能性がある、というのは生成AI登場直後から問題になっていました。最近も「査読をしていると依然として実在しない論文が引用されている事がある」という議論をSNSなどでしばしば見かけます。このような原稿は著者らが適切に引用文献を選定し本文に引用していないことになるため、本来査読を受けるに満たない原稿の可能性があります。

引用文献のファクトチェックは査読者の役割ですのでもちろんすべての引用文献に目を通すのですが、総説論文では引用文献数が100篇を超えることもあります。

現状査読者は「文献が適切に引用されているか」だけではなくそもそも「引用文献が実在するか」についてもチェックをする必要があり、生成AIの弊害を感じるところでもあります。

査読は業績になる

これは同僚の先生方に教えてもらったのですが、近年査読実績を業績として記録に残そう、という流れがあります。過去の査読はWeb of Scienceのプロフィールに登録することができます。(かつてはPublonsというサービス名だったようで、こちらの記事こちらの記事で詳しく解説されています)

査読実績が可視化されることで達成感を感じると共に引き続き頑張ろうというモチベーションにもなるかもしれません。

自分は査読を行った雑誌名、回数を表示する設定にしています。


冒頭でもお伝えした通り、私は査読初学者でありまだまだ査読に関する勉強が必要です。皆様のおすすめ資料があればぜひ共有いただければ幸いです。
(ご紹介いただいた資料はこちらの記事に追記という形で共有させていただきたいと思います)

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