【論文紹介】終末期ケアにおけるオピオイド静注の適切な使い方

Palliative care

少し前にJournal of Hospital Medicine (JHM)に“Things We Do for No Reason™: Opioid infusions as initial therapy for symptoms at the end of life”という論文が掲載されていました。

 

Things We Do for No Reason™は特定の臨床マネージメントについてChoose Wiselyの視点から改善策を議論するJHMの人気企画で,臨床医のかゆいところに手が届く内容になっており毎回大変勉強になります。今回のお題は「終末期ケアにおけるオピオイド静注の適切な使い方」です。

終末期ケアにおいて,オピオイドは患者さんの苦痛緩和を行う上で重要な薬剤です。しかし論文中で言及されているように,米国ではオピオイド静注の開始速度,用量調節など実際の使用方法が統一されておらず,オピオイドの投与量が足りず症状緩和に至らない,時間がかかってしまうなど適切な緩和ケアができていない場面がよくあり,また標準化されたトレーニングを受ける機会も限られているようです。この問題は日本の臨床現場にも当てはまるように感じます。

 

私の総合内科の師匠は米国へ臨床留学し内科研修をしていた際に指導医から

「緩和ケアのためにオピオイドを使うときは,必ず医師がフラッシュを繰り返して患者さんが『楽になった』と言ったのを確認してから持続静注を始めなさい」
(↔オピオイド持続静注だけで症状緩和を試みると,患者さんが苦痛を感じる時間が長くなる)
と習ったそうです(このプロセスにDose findingという名前がついていることはこの論文を読んで知りました)。師匠は緊急で緩和ケアが必要な患者さんが入院してくると必ずベッドサイドで率先してレジデントたちをサポートしてくれました。特に薬剤調整のスピード感やゴールオブケアディスカッション,オピオイド導入時など重要な場面での患者さん,ご家族とのコミュニケーションなど師匠の対応から多くのことを学びました。常に患者さん,ご家族にとって最適な緩和ケアの方法に思いを馳せ,知識と経験をアップデートさせていく師匠の姿と,「心筋梗塞の患者さんが発症から一刻も早くPCIで再灌流を達成するのと同様に,耐え難い苦痛を感じている終末期の患者さんにとっては一刻も早く苦痛を取り除くことが必要」というメッセージは当時レジデントだった私の心に大きく響き,臨床倫理や急性期における緩和ケアに興味を抱くきっかけとなりました。

この論文には師匠が繰り返し説いていたTipsが多数登場しており個人的に大変印象的だったため,いくつか紹介したいと思います。

Opioid infusions as initial therapy for symptoms at the end of life

J Hosp Med. 2024;19(4):320-322.

なぜオピオイド投与量は不十分になりやすいのか

終末期患者ではしばしば十分な苦痛緩和が行われていない。オピオイドのボーラス投与が行われず持続投与のみで使用開始される理由として
  • オピオイド持続投与の方が症状緩和が早い
  • 終末期に投与量を漸増しやすい
  • ボーラス投与で患者や家族の「邪魔」をしたくない
  • 持続静注のほうが看護師さんが管理しやすい
等の臨床医の誤った理解によるものが多い。

オピオイド静注の使用方法

腎機能正常と仮定した場合

  • モルヒネ換算0.5-1mgボーラス投与で静注開始上,症状緩和に至らない場合は15-20分おきに投与量を2倍に漸増していく。→このプロセスは“Dose finding”と呼ばれる。(Dose findingは医師がベッドサイドで患者さんの全身状態や訴えを観察しながら行う必要があります)
  • Dose findingを行うことにより迅速に症状緩和を達成しつつオピオイドの必要最小用量を見極めることができるため,副作用のリスクを最小限に抑えられる
  • この方法を用いれば,オピオイドが患者の呼吸状態を悪化させたり,死期を早めたりすることはない。
  • その後は1時間おきに投与が可能 (ボーラス投与後15-20分後に看護師さんに全身状態の再評価をお願いする)。

終末期における不適切なオピオイドの使用

  • オピオイド未投与の患者(直近24時間の経口オピオイド投与がモルヒネ換算30mg未満と定義される)に開始されたオピオイド静注。
  • 24時間の間に投与速度が3回以上増量される。
  • 最初の2時間でオピオイド静注が3回未満で開始された持続静注。

→このようにオピオイドが使用されている場合,症状緩和が上手くいっていない可能性がある。

 推奨

    • 軽度の痛みにはアセトアミノフェンなどの非オピオイドを使用し,平穏な環境を作りながら体位変換などの非薬物治療を優先する。
    • 疼痛や呼吸困難のない終末期の患者には,オピオイドを開始しない
    • 終末期の疼痛や呼吸困難に対する初期治療として,オピオイドボーラス投与による増量を行う。
    • 頻回なボーラス(4時間で5回以上)を必要とする場合は,オピオイド持続静注を検討する。
    • ボーラスの必要量を目安に初期投与速度を決定し,必要に応じて速度を調節する。

※今回はオピオイド静注という特定のトピックに言及していますが,実際の終末期ケアは薬剤のみならず患者さんやご家族,ケアに関わる医療者とのコミュニケーションや環境調整など様々な要素が重要です。
Hospitalist(ホスピタリスト) Vol.11No.1 2023(特集:コマネジメント) に掲載されている「急性期病院でのホスピスケア」という記事に要点がまとまっていますので,ぜひ一読いただければと思います。

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