Just-in-Case learning
いつか出会うかもしれない事象に関しての学修
専攻医時代は日々遭遇する臨床疑問やその場の問題を解決するためのJust-in-Time learningが勉強時間の大半を占めていましたが,年次が上がるにつれてJust-in-Case learningのウエイトが増えてきたように思います。
以前から理想のJust-in-Case learningの方法,特に自分の関心領域に特化した文献検索ツールを求めてFeedly,Evidence alert,メーリスなど各種サービスを試してきましたが,イマイチしっくりこなかったのと飽きっぽい性格も相まって長続きませんでした。ここ数年はX(Twitter)を用いて情報収集する方法に落ち着きました。
Xユーザーの方はご存知と思いますが,ここ数年のXは諸般の事情によりどこか混沌としたSNSへと変貌を遂げつつありますが,自分はいくつかの理由から変わらずXを活用しています。
医療者のX (Twitter)活用術 2025
なぜXはJust-in-Case learningに適しているのか
おそらくみなさんが普段目にするJournalの多くは公式SNSアカウントを運用していると思います。
実はSNSが医学論文に及ぼす影響は以前から割と真面目に研究されており,実際に査読付き論文も出版されています。
Mayo Clinicが行ったRCTでは医学論文のプロモーションにSNS (X, FB, LinkedIn) を活用することで,いずれのプラットフォームでも被引用数は有意差ないものの文献ダウンロード数がアップするという結果でした。2022年にも
ESC系列誌掲載論文を対象としたRCTが行われており,Twitterでのプロモーションにより医学論文の
被引用数が約10%アップするという結果でした。
つまりSNSでプロモーションすることで医学論文は多くの読者の目に触れ,ともすれば後続の論文に引用される可能性があります。これはJournal,研究者双方にとってメリットがあることなのでJournal側は注目論文の推しポイントを,研究者側は研究結果の要点をわかりやすく説明しようと,双方が論文紹介を行うことも珍しくありません。なかでもXは特に利用者の多いプラットフォームであり,プロモーションが活発に行われるのは必然といえるかもしれません。
さらにXで情報収集を行うメリットはJournal公式,もしくは他の医療者アカウントによってフィルタリングされた論文や医学情報をタイムライン(TL)上で要約付きで読んで取捨選択できる点にあります。日本で「医クラ」という呼称があるように,海外の医療者界隈は「MedX (旧MedTwitter)」と呼ばれており,新鮮かつ有用な情報が次々と流れてきます。個人的にXはJust-in-Case learningのツールとしてはこれまで用いてきたどのツールよりも使い勝手が良いです。
注意点は,ポストの内容は恣意的だったり真偽不明であることも多く,インプレッションの多い投稿≠事実であるため,ファクトチェックができないと誤情報をキャッチしてしまう危険があります。第三者の解釈が加わった医学情報は諸刃の剣であることを意識しつつ,Xのポストも通常の情報検索と同様鵜呑みにせず,元文献などの情報源まで確認することが重要だと考えています。
国際学会の最新情報もXで
国際学会の多くはSNSで拡散されることを前提としており,学会会場のみならずSNS上でも議論を盛り上げるべく
様々な戦略を立てているようです。学会が始まるとXでは学会名のハッシュタグが付いた様々な情報が発信されるため,日本にいながら現場の臨場感を感じつつ現地参加者のまとめをゲットすることができます。コロナ禍による行動制限が転じてこの流れを加速させた側面もあるとは思いますが,自分はなかなか国際学会に参加する時間を確保できないため,本当に良い時代になったと感じます。
リスト機能を活用する
ここ数年Xは仕様変更を繰り返しており,サービス名やUIのみならずTLの表示アルゴリズムもちょこちょこ変わります。2024年の中盤くらいまではおすすめTLを最適化,具体的には興味がないポストが流れてきたら右上「⋯(もっと見る)」ボタンから「このポストに興味がない」を押すことで自分の欲しい情報が流れてくるようにできていたのですが,最近は次々と無関係なポストが流れてくるようになり,おすすめTLを勉強に最適な状態に維持するのは困難になってしまいました。いまはおすすめTLに時折流れてくるフォロー外アカウントからのお役立ち情報をキャッチアップするにとどめています。
最近はおすすめTLに変わってもっぱらリスト機能を活用しています。Journal公式やお役立ち情報を発信してくれるアカウントを追加し,トップページに固定することでTLとして適宜情報をアップデートしています。

リストはこんな感じでタイムラインとして固定することができます。
おすすめTLと違って投稿の時系列が保たれるため,取りこぼし無くチェックする点が気に入っています。リストは公開していますので,興味がある方は参考にしてみてください。(リストの使い方についてはこちらを参照ください)
自分は後で読みたいときにはブックマーク,読了したらいいね,メモを残したいときは引用リポストを使い分けることで後から見直せるようにしています。
また検索バーから高度な検索でアカウント名,日付,キーワードなどをフィルタリングして過去のポストを検索することができるため,よく過去のポストをリコールするのに用いています。
引用リポストのマイルール
引用リポストは主に今後引用する可能性がある論文のメモやアイデア出しに使用していますが,基本的に引用リポストではツリーは用いず,1ポストで感想を伝えられるエッセイや総説などを紹介しています。自分は批判的吟味が必要な研究論文についてはコンパクトにサマライズする能力に乏しく,誤った文脈でメッセージが伝わってしまう可能性があるためXではポストせず,ブログや抄読会のネタにしています。
おまけ:XでSocial networking
Xは海外の医師や研究者の間ではソーシャルネットワーキングの手法として認識されており,例えば米国ではレジデンシーマッチングに際してXで就活用のアカウントを作成することが戦略の一部になっていたりします。また学術活動を行う医師がXアカウントを保持していることも多く,最近は論文のWebページのみならずPDFにも著者のXアカウントが紐づけられていることが一般的になっているように思います。
女性医師のソーシャルネットワーキングについての論文ではアカデミアがSNSを活用するためのフレームワークとして
NODES(Novel Networking, Open Discussion, Engagement, Self-Promotion)が提案されています。
たとえば,バイオグラフィに個人プロフィールと職歴をしっかり記載することが薦められており
・本名と資格(例:M.D., Ph.D.など)
・専門分野
・特筆すべき参加プロジェクト
・所属と専門分野の活動
・関係するアカウントをタグ付けする
・趣味などの関心事を記載
・プロフィール写真は近影がはっきり確認できる写真が望ましい
など自分の身元やアカデミアとしての志向を開示することがネットワーキングの第一歩,というようなことが書いてあります。
また,面識のないアカデミア同士がDMなどで直接連絡を取り合うことはcold callingと呼ばれ,実際にcold callingから仕事や研究のメンタリングを依頼したりすることもあるようです。
一方で日本と海外ではXの立ち位置が少し異なるため,cold callingが機能することは少ないかもしれません。また国内にはXを上手に活用している匿名アカウントも多く,良し悪しを比較できるものではありませんが,実名アカウント作成の際には今回紹介した内容が役立つかもしれません。
Xは適切に運用すればインプット,アウトプットの相乗効果を得られる医療者にとって有意義なプラットフォームだと考えています。自分は約2年前に英語のアウトプットを目的として実名アカウントを作成しましたが,その際に上記論文などを参考にしました。特に英語のトレーニングを受けているわけではないのでChatGPTフルサポートでアカウントを運用していましたが,実際に海外の医師からコンタクトがあったり,尊敬する先生から自分のポストに対するリアクションがあったりといろんな御縁がありました。(現在は日本語ポストが中心ですが,突然英語ポストをしても温かい目で見守っていただければ幸いです)
今後も効果的なXの活用法について模索していこうと思います。
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