【書籍紹介】平静の心 オスラー博士講演集 新訂増補版

Book review

平静の心はウィリアム・オスラー先生の講演集を日野原重明先生が翻訳した書籍です。100年以上前から変わらない重要な医師の資質を学ぶことができる,私にとって研修医の頃からの愛読書です。

これまで,同僚や後輩からおすすめの本を聞かれるたびに平静の心を推しているのですが,
「本の分厚さを見ただけで積ん読になってしまった」
「文章が理解できず最初の数ページで挫折してしまった」
というようなコメントを複数いただきました。たしかに読み方にコツがいるのですがとても教訓的な書籍なので,読み進め方も含めて内容を一部紹介したいと思います。

 

Dr. William Osler (1849-1919)
米Johns Hopkinsや英Oxfordなどで大学教授を務めた内科医で,近代医学の発展に最も貢献した医師の一人として広く知られています。臨床,基礎に精通し,感染性心内膜炎の身体所見であるオスラー結節や遺伝性出血性毛細血管拡張症,いわゆるオスラー病の発見を始めとする様々な業績を残したほか,教育においては現在の医学生の学生実習の基本となっているBedside learningの概念を提唱し,学生たちをベッドサイドに連れ出した人物ともいわれています。
人文科学にも明るく,その生涯を通じて多くのメッセージ,功績を残しています。

オスラー先生は多くの格言を残されていますが,

“The practice of medicine is an art, based on science. “

医学は科学を基礎としたアートである,という格言はオスラー先生を知らずとも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

(2018年に発売された 総合診療 クリニカル・パールPremium でもオスラー先生や日野原先生の言葉が紹介されており必見です!)

 

平静の心

読み進め方

平静の心には,1889-1919年頃に行われた18の講演が収録されています。まえがきには「後半になるほど文章が洗練されていく,初期の講演は古典文学的修飾語が多すぎて難解」と断り書きがあり,実際ページをめくると背景知識ナシでは解読不能な表現が続きます。これらの表現には大量の注釈がついていますが,個人的にはいちいち注釈をめくって読む手が止まったり,集中力が途切れるのはもったいないので,よほど気になった表現以外は読み飛ばしてもよいのではないかと思っています。

また,まえがきでは「巻末 ウィリアム・オスラー卿の障害とその業績並びに思想について」→「17章 生き方」→「18章 古き人文学と新しき科学」の順に読み進めることが勧められています(各章が独立した講演のため,読む順番はランダムでも問題ありません)。翻訳者が「後ろから順番に読んでください」というメッセージを出すのも珍しい気がしますが,通読することで17章以降がオスラー先生の集大成であることがよくわかると思います。

 

 

平静の心

とはいっても自分のお気に入りはやはり「1章 平静の心」です。

平静の心(aequanimitas)はギリシャ哲学に端を発する言葉で,「沈着な姿勢に勝る資質はない」という普遍的な医師の資質を説いています。オスラー先生は実践と経験を積み重ねる事によってこの資質を身につけることができるとしています。

また,オスラー先生は「周囲の人達に多くを期待しない」の重要性についても言及しており,自分もアンガーマネジメントにおける重要な教訓として心に留めています。

 

防日区画室

もうひとつ,「17章 生き方」でオスラー先生が説いている防日区画室というコンセプトも自分にとって大切な教えです。これは防水区画(船が沈まないように船底が密閉された区画に分かれている構造)になぞらえたもので,嫌なことがあっても,次の日に持ち越さないよう心がけよう,というものです。「忘れがたい過去を閉ざす」「夜,過去という服を脱ぎ,新たな朝を迎えよ」という格言が心に響きます。

 


この記事を書くにあたり,久々にページをめくり直しましたが改めて良い本だと感じました。もし共感していただける方がいれば,ぜひオスラー先生について語り合いたいものです。

 

最後に,私の好きなオスラー先生の言葉を紹介したいと思います。

“患者を診ずに本だけで勉強するのは,まったく航海に出ないに等しいと言えるが,反面,本を読まずに疾病の現象を学ぶのは,海図を持たずに航海するに等しい”

 

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