【論文紹介】Long Covidの定義

Infectious disease

米国のNational Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM)からLong Covidの新たな定義に関する論文が発表されました。

Just a moment...

Long Covidは現在世界中に6000万人以上の罹患者がいると言われており,深刻な公衆衛生問題に発展しています。

Brain fogや倦怠感のような非特異的症状から,間質性肺疾患や心筋症など重篤な臓器症状まで多彩な症状を呈する一方,未だに病態は不明確で統一された定義や治療法,ガイドラインなどが確立されていない,未完成な概念です。

この論文では臨床医がLong Covidの臨床マネジメントを行う上で抑えておきたい重要な議論がまとまっており,紹介したいと思います。

2024 NASEM LONG COVID DEFINITION

定義

SARS-CoV-2感染後3ヶ月以上症状が持続,もしくは増悪寛解を繰り返す1臓器以上に影響を及ぼすinfection-associated chronic conditionsである。
(Box 1参照)

3ヶ月以上という期間が設けられているのは,SARS-CoV-2感染急性期にも同様の症状を呈することがあり,これを除外する必要があるためです。

今回の定義ではLong Covidはinfection-associated chronic conditions,つまりME/CFSやLyme病,多発性硬化症などのように感染症罹患との関連が示されている慢性疾患と同様の立ち位置としています。

SARS-CoV-2感染の証明は不要

世界的なCOVID-19流行により,急性期の診断検査偽陰性や検査未施行,または無症状者患者が増加していることが予想されます。

これらの患者もLong COVIDに罹患する可能性があることから,Long COVIDの診断においてSARS-CoV-2感染を証明する検査は不要です。

疾患特異的なバイオマーカーがない

これはLong Covidを定義するうえでの大きなLimitationで,病態の解明に向けた取り組みが続いています。現状は症状や臓器障害から臨床診断を行うことが推奨されています(Fig 1参照)。

除外診断ではない

Long COVIDは膠原病や自己炎症性疾患などの類似する全身疾患と併存することがあり,その誘引にも増悪因子にもなる可能性があるため,代替診断の存在はLong COVIDの否定にはなりません。

Long Covidのフォローアップ中に他の全身疾患の症状が顕在化し始めた場合には,

①もともと潜在的に存在した全身疾患がLong Covidにより顕在化した
②Long Covidが引き金となり新たな全身疾患を発症した
③実はLong Covidではなく,他の全身疾患の非典型的な初期症状だった

などの複数の臨床シナリオを念頭に診療に当たる必要があります。


Table 1では過去に発表された6つのLong Covidの定義との比較が行われていますが,今後もLong Covidに関する研究の発展にや情報の集積に伴い,Long Covidの定義やマネージメントは変化していくことが予想されます。また,時を同じくしてLancetからは総説が発表され,Long Covidについて情報を整理する良い機会となりました。

余談ですが,先日Xでこの論文に関する内容をポストしました。ご存じの方も多いかもしれませんが,この論文の筆頭著者はE. Wesley Ely先生,Post ICU syndrome (PICS)研究の第一人者であり,近年はCOVID-19研究にも尽力されています(PICSとはなにか興味がある方はこちらをご参照ください)。

Ely先生は私が尊敬する集中治療医の一人であり,彼の著書である「深く息をするたびに(原題:Every Deep-drawn Breath: a Critical Care Doctor on Healing, Recovery, and Transforming Medicine in the ICU)」はEly先生がICU survivor達の病体験と後遺症治療に向き合っていく中でPICSの疾患概念を確立されていった歴史が鮮明に描かれており,医療従事者の皆様には是非一度手に取ってほしいと思っています。

今回のポストは日本語のみのポストにも関わらずEly先生御本人からいいねを頂き,万感胸に迫る思いでした。

深く息をするたびに - 株式会社 金芳堂
訳:田中竜馬 四六判・387頁 | 定価:3,520円(本体3,200円+税) 【内容】ABCDEFバンドルのイリー医師によるICUエッセイ。新型コロナ流行によりICUがより身近になった今、よりよいICUとは何か? 著者の経験から紐解きます...

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