【論文紹介】コードステータスの記載方法

Ethics

CHEST Critical careにコードステータスの記載方法についての研究が掲載されていました。
コードステータスにおける重要なポイントを捉えた論文だと感じたため紹介します。

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注意)今回の論文は医療現場における実際のコードステータス運用に着目した論文であり,コードステータスの意思決定プロセスについて言及したものではありません。コードディスカッションについての理解を深めたい方には終末期ディスカッション「第10章 コードステータスをどう話し合うか?」がおすすめです。

 

Physician Perspectives on Challenges in Understanding Patient Preferences for Emergency Intubation

ポイント:適切なコードステータスの記載方法は?

論文中で紹介されている基準は以下の3点です。

①記載の選択肢は3つ
・Full code
・心停止前の挿管は行うがDNR
・DNIかつDNR
②気管挿管の可否について「CPR中」と「心停止前」を区別して明記する
③「Full codeだが気管挿管はしない」(=Partial DNR)というコード設定を行わない

これらを遵守することで医療者間で解釈の余地が生まれない,適切なマネージメントにつながる可能性が高まります。

DNI = do not intubate (いかなる時も気管挿管を行わない)
DNR = do not resuscitate (心停止時にCPRを開始しない)

研究について

Stanford大学の倫理委員会承認を受けた,コードステータスに関する米国の多施設質的研究の一環のようです。

あらかじめホスピタリスト,集中治療科,緩和ケア科など日常的にコードステータスを取り扱う医師たちを対象に各施設のコードステータスの運用について半構造化面接を行い,上記の適切なコードステータス記載の基準を定義し,対象施設の運用が基準を満たしているかを評価する,という論文でした。結果は米国7施設で6つの運用方法が同定され,そのうち基準を満たしていたのは2つのみという結果でした。

用語の整理

コードステータスを巡る議論では様々な用語が登場し,しばしば定義や解釈の相違を生じます。

特にEditorialでも言及されている通りDNARはしばしば拡大解釈され,「心肺蘇生以外の医療行為も差し控える」という誤った解釈をされることがあります。医学用語を正しく理解し使用することは大変重要です。過去に日本集中治療医学会から「DNARの考え方」という報告が出ていますので一読いただけると幸いです。

この記事では論文中の記載に従い,”心停止時にCPRを開始しない”ことをDNRと表記しています。

なぜコードステータスの記載方法は重要なのか

コードステータスは急変時など患者さんの意向を確認できない場合のマネージメントに備えるという重要な側面がありますが,肝心のコードステータスの記載場所が分かりづらかったり,記載内容が曖昧だと患者さんの意向に沿った対応が行われなかったり,判断が遅れる危険があります。

事前に患者さん,ご家族と話し合ったコードステータスを正確に記載し医療者間で共有することが重要です。

気管挿管に関する記載の重要性

この論文ではコードステータスと併せて気管挿管をするかしないかを明言することが推奨されています(Theme 1: Importance of Including Intubation Preferences in Code Status Orders)。

また「CPR中の気管挿管」と「心停止前の気管挿管」の違いを説明することの難しさについては論文中でも言及されていますが,医療者がそれぞれの役割について理解し,患者さん,ご家族へ説明できるよう診療チームの意思統一を図ることも重要です(Theme 2: Necessity of Clarifying Patient Preferences for CPR and Pre-Arrest Emergency Intubation)。

なぜPartial DNRは推奨されないのか

この論文内では「コードステータスとしてPartial DNRは推奨されない」としています(Theme 4: Options That Should Not Routinely Be Offered)。前述の「DNARの考え方」にも同様の記載があります。

cardiopulmonary resuscitation (CPR)は”心肺機能が停止した状態にある傷病者の自発的な血液循環および呼吸を回復させる試み”(日本救急医学会 医学用語解説集より引用 2024/7/14にアクセス)であり,気道確保,人口呼吸,胸骨圧迫すべてが揃って初めて有効なCPRとなります。そのため自己心拍再開を目指しているにもかかわらず,気管挿管を行わずに胸骨圧迫のみを行っても,血液が十分に酸素化されず脳や組織は低酸素によるダメージを受け続け,自己心拍再開の可能性は低下することが予想されます。論文では例外的なシチュエーションとして,自己心拍再開後も自然気道開存する可能性について述べていますが,もし気道,呼吸が不安定な場合,低酸素から再度心停止に陥る可能性が高く,これらの理由により気管挿管を行わないことを前提とするPartial DNRは推奨されません。

理想的なコードステータスの記載場所は?

「X科のAチームは指示簿に,Bチームはカルテに,はたまたY科のC先生は掲示板に」というようにコードステータスの記載場所がまばらになると実際の急変時対応で混乱を生じる可能性が高く,コードステータスの記載場所は診療科や施設などの単位で統一する事が望ましいでしょう。可能ならRapid response teamなど急変対応にあたるチームも交えて決定するのが理想かもしれません。

また「コードステータスをカルテに記載して,念の為指示簿にも記載」というように複数の場所に記録を残すと,いずれかの更新を忘れた場合に複数のコードステータスが存在することになってしまいます。このような混乱を避けるためにもコードステータスは「記載場所を統一し,矛盾する記載を行わない」ことが重要です。


論文を通じて,米国の臨床医の間でもコードステータスの解釈にはばらつきがあり,現場運用も異なることが伝わってきました。今後もこのような論文や学会推奨,ガイドラインを交えながらコードステータスの最適な現場運用について,繰り返し議論を続けていく事が重要かもしれません。

余談ですが,今回の論文には私の師匠が執筆に参加したPartial DNRに関する論文も引用されていました。

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