【執筆】「心不全合併AKI患者の治療」を執筆しました

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「知りたいことがわかる 腎疾患テキスト」という書籍で「心不全合併AKI患者の治療」について執筆しました。

前職場はハートセンターを有していたことから虚血性/非虚血性心疾患や弁膜症などの様々な背景を持つ複雑な心不全症例に対して総合内科医,集中治療医として診療を行う機会がありました。ジェネラリストが病棟主治医として日々のマネージメントを行うシステムを採用しており,循環器内科,心臓血管外科,腎臓内科などの専門科に介入してもらう場合も各科に正しい情報を伝え適切なマネージメントにつながるアセスメントができるよう各科と共通言語を獲得し,血行動態を「言語化」することをチームとして心がけていました。

その中で日々の回診やカンファレンス,専門科とのディスカッションで話題に挙がる事が多かった議論を基に構成を考えました。

推敲を重ねた結果14ページ,引用文献74編というボリュームに仕上がりました(特に文献レビューはたいへん骨の折れる作業でした・・・)。

知りたいことがわかる 腎疾患テキスト|書籍・jmedmook|日本医事新報社
知りたいことがわかる 腎疾患テキスト

 

トピックは大きく分けて2つ,「AKIを合併した心不全の治療戦略」と「AKIを合併した心不全に対するFantastic 4」です。

前半は利尿薬,血管拡張薬の使い方など基本的な事項はもちろん,Worsening renal function (WRF), 利尿薬抵抗性, normotensive AKIなど,抑えておきたい概念や対応について言及しました。

後半はGDMTのコンセプトやFantastic 4のアウトカム,腎機能への影響,注意すべき合併症や実際の導入順序などについて述べました。

各項目のLandmark studyを中心に文献紹介を行いましたが,どのようなエビデンスがあるのか,もしくはエビデンスが無いのか,ということについて明記するよう心がけました。また心不全の急性期マネジメントは生理学的考察と臨床経験が重要というメッセージも盛り込みました。

自分が医師になった頃はまだSGLT2iは心不全への保険適応が通っておらず,糖尿病診療においても当時の総合診療科指導医から「新薬で長期アウトカムが不明確な一方,薬価も高く副作用もある薬なのでジェネラリストは導入に慎重になるべきである」と教えられていました。この教えは当時としては妥当なものでしたが,それからわずか数年の間に次々と大規模RCTが登場し,現在ではSGLT2iは糖尿病のみならず,心不全やCKDに対しても積極的に適応を検討するべき薬剤へと立ち位置が変化していきました。近年のGDMTに関するBreakthoroughは本当に印象的でした。

 

今回,執筆にあたって全体の整合性を確認するために引用文献の中でも特に日米欧州ガイドラインやBraunwald’s Heart Diseaseなどの成書を読み込みました。

自分がFantastic 4の研究についてフォローするようになったのはDAPA-HF trial (2019年)以降だったのでそれ以前の約20年の流れを整理し,各薬剤がエビデンスを確立していった歴史的経緯についてまとめる作業は自分にとっても良い勉強になりました。

(表は草稿時のものです。東京ベイ・浦安市川医療センター循環器内科 本田雅希先生がレクチャーで使用していた表がとても綺麗にまとまっておりわかり易かったので,許可をいただき原案をお借りしました。)
恐ろしいことに,原稿のたたき台を作った2023年10月以降も次々とFantastic 4に関する研究が発表されています。数年後にはこの原稿に書いてあるマネージメントも過去のものとなる可能性が高く,本文にも記載した通り今後も定期的な知識のアップデートが必要と感じています。
全体を通して実臨床で議論に挙がることが多い,ガイドラインだけでは解決できない問題について取り上げたため,副次的な効果ではありますがこの章を読むことでJ-Oslerの病歴要約の考察や引用文献の参考になるのでは,と思ったりしています。もし読まれた方がいらっしゃれば,感想やフィードバックをお待ちしています。

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