【論文】下顎隆起のケースレポートがAmerican Journal of Medicineに掲載されました

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“Asymptomatic torus mandibularis”というタイトルのcase reportがAJMからPublishされました。

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Acceptに至るまで2年以上にわたりReject6回+Revision1回を経験し、まさに七転び八起きで多くを学びました。

Asymptomatic torus mandibularis

Torus mandibularis (TM)とは

TMは日本語で下顎隆起と呼ばれ、その本態は下顎骨に生じる良性腫瘍である骨軟骨腫 (exostosis)です。上顎骨に生じると口蓋隆起(torus palatinus)という名前になります。

全く別の疾患で入院されていた患者さんの口腔内診察時に所見を見つけたものの、見慣れない口腔内病変でうまくsearch termを設定できず、鑑別に苦慮しました。

歯科の先生にTMの一般論について尋ねたところ

「歯科医にとっては日常的に遭遇するcommon disease、無症状であれば経過観察で問題ない」

と教えてもらい、その後の文献検索で

“The discovery of these exostoses usually occurs incidentally during a routine clinical exam”という全く同様の記述を見つけました。

「歯科医にとってはcommonだが内科医にとってはuncommon」というギャップが興味深く、TMについて内科医向けに教育的な報告ができるのでは、感じたことが執筆のきっかけでした。

執筆プロセス:論文Rejectを再考する

私はPGY7から英文誌に挑戦し始め、この原稿はその初期に執筆開始したうちの一つです。当初150-200wordsの本文を作成して投稿作業を行っていましたが、最初の5誌はすべてeditor kickという厳しい結果でした。

6誌目でなんとかMajor revisionのチャンスをもらったもののあえなくReject、そしてDecision letterに記された辛辣な査読コメントの数々に完全に心が折れ、その後1年間原稿を塩漬けにしていました。

そんなある日、Journal of Hospital MedicineのEditor-in-Chiefの記事を目にしました。

内容の多くは執筆経験が豊富な先生方は自然に会得しているでしょうし、成書に記載されていることも多いと思います。自分も周囲から同様のアドバイスを受けてはいたものの、いまいち飲み込めていない部分が多かったのですが、JHMの編集長直伝のメッセージはとてもわかり易く、めちゃくちゃ沁みました。

査読コメントを踏まえた修正を行い次の雑誌に再投稿する

Reject自体は決して嬉しい経験ではありませんが、査読コメント付きのRejectとなった場合には、そのコメントを次の原稿に反映することで必ず原稿の質が改善される、というメッセージです。

これを読んだ後、一念発起してこれまで目を背けていたReject時の査読コメントを読み直し、修正を行うことにしました。

原稿が塩漬けになっている間も「Academic writingについて理解できていない」という自分の課題は明確に感じていました。そこでライティングスキルを向上するべく、「伝わる英文」の修得に取り組みました。また筆頭、共著を含め複数のOriginal article, Case report, Clinical Picture執筆(+最近は査読)に参加する機会を頂き、主観的、客観的に文章を評価する、という場数を踏むことができたのもとても良い経験でした。

これらの経験を踏まえて原稿を見直すと、曖昧で非効果的な文章が多く、パラグラフの構成が稚拙なために主張が適切に伝わっていない、論理が飛躍していると判断されてもおかしくない箇所が複数あることに気づきました。

また、以前は辛辣な言葉と感じた査読コメントも、今読むと「言われてみればそのとおりだ」と感じる妥当な指摘ばかりで、決して悪意ではなく原稿を改善するための建設的なフィードバック、不完全な論理を補うピースを提案していたということを理解することができました。

今回の原稿に関しては、自分の伝えたいメッセージを十分に伝えるためには150-200wordsでは足りないと判断し、650wordsをしっかり使えて教育的な論文を募集しているAJMを次の投稿先に決め、大幅に文章を書き換えました。

NEJMにもTM
NEJMのclinical pictureのセッションであるImages in Clinical Medicine では
2013年
2014年 と連続してTMが掲載されています。
以前から「NEJMのImages選考基準は謎に満ちている」という通説がありますが、プレゼンテーションも画像も類似した報告が2年連続で掲載されるというのは少し驚きました。

ちなみにAJMでは2017年にClinical pictureとして掲載されていました。

AJM

Day 1: Submit→Accept
Day 12: Decision letter
Day 13: Published online
AJMは米国のアカデミア、医学教育志向の内科医の学会であるAlliance for Academic Internal Medicine(AAIM)の機関誌で、表紙が緑色であることから通称“The Green Journal”と呼ばれ、総合内科領域ではトップジャーナルの一つと考えられていますが、日本からの投稿も多い印象があります。(AAIMは私が愛聴しているCurbsiders Teach Podcastのスポンサーでもあります。)
今回はClinical pictureに相当するClinical Communications to the Editorというセクションに投稿しました。
過去に投稿からわずか8時間でrejectを頂いた事があったので、とにかくinitial decisionが早いというイメージがあります。
今回も投稿から24時間以内に投稿ステータスが”Decision in process”に変わり、10日ほどでAcceptのdecision letterが来ました。
投稿履歴を見てみると、投稿日にはAcceptの判断となっていたらしく、decision letterの翌日には各種出版手続きが終わりそのままArticle in pressでPublish、というスピード感でした。
Clinical Communications to the Editorはonline issueとしてWeb掲載の場合も多いようですが、今回decision letterには紙面掲載してもらえる旨が記載されていました。しかもarticle pageを見ていて気付いたのですが、Full length article (=Case report)に昇格していました。
投稿規定には”Manuscripts may be accepted for print or online-only publication. The editors will determine the format.”と記載されており、オンラインのみ±誌面掲載、Clinical picture or Case reportとしての採択は個別に決定されるようです。

読み慣れたグリーンジャーナルのトップページに自分の論文が掲載されているのは感慨深いものがありました。

予想外の1発Acceptとなりましたが、これまでの7転びなくしてありえない結果だったので、ほっと胸をなでおろしています。Reject時の査読コメントはともすれば蔑ろにしたくなる気持ちが生じますが、受け入れられるものについては適切に修正する必要性を実感しました。
また、つい先日までは「お蔵入りになった原稿の例」としてレクチャーの題材にする予定でしたが、「Reject時の査読コメントに真摯に対応して次の雑誌でAcceptされた例」となり、諦めなくて本当に良かったと感じています。

おそらく、どんな論文にも掲載先がある

今後も幾度となくRejectを経験することになると思いますが、この言葉を信じて査読コメントと向き合い、投稿を続けていこうと思います。

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