指導医は嘘をつく生き物だと思え
内科専攻医としてICUをローテートしていたときに指導医から教わったclinical pearlです。
その心は
「臨床医は自らが下す判断の根拠を常に述べられる必要がある。指導医からの教えは当然重要だが,覚え違いをしていたり回診で根拠の曖昧な耳学問を披露することがあるため鵜呑みにしてはいけない。日頃から指導医の助言に耳を傾けつつ,その内容に疑問を抱いたら情報の出どころを尋ね,自ら調べ,誤っていたらフィードバックすることでチーム全体がより良い臨床判断を下せるようになる」
という意味だと解釈しています。
医療安全の文脈で引用されることが多いAlexander Popeの”Too err is human”という言葉が表すように,教えることに長けた指導医も間違えるのは当然,と考えるべきでしょう。
前職場では指導医が若手医師に経験や知識を伝え,若手医師が新たに勉強したことを指導医に教えることでチーム全体が成長していくチームダイナミクスが,集中治療科のみならず病院全体で醸成されていたように感じます。マネージメントにおける議論においてはトップダウンではなく,最も妥当な意見が採用されるという風通しの良さもあり,若手としては大変働きやすかったです。
また,このpearlは若手医師のラストマンシップを促し,成長のきっかけになるものだと思っています(ラストマンシップとは)。
学習者の経験,内的動機づけを重視した成人学習の概念に則ったpearlですが,これを若手医師が実践するためには,若手医師が発言しやすい環境づくりが必須です。今となっては自分がこのpearlを教え子たちに伝える立場になりつつありますが,後輩たちから意見を言ってもらえる指導医になろう,と強く感じています。
以前倫理レクチャーでも触れた通り,我々は「医学的に妥当か」「倫理的に妥当か」といった複数の視点から臨床判断を下しますが,前者を解決するための臨床疑問は一般的にbackground question,foreground questionに大別され,臨床疑問の種類によって拠り所となる情報源は異なります。
background question(背景疑問):5W1Hで表現できることが多い。解剖学,生理学、マニュアル本などの教科書知識やUpToDate,ガイドラインなどを参照する。
foreground question(前景疑問):PICOで定式化することが多い。臨床研究論文を用いて解決する。
エキスパートオピニオン,耳学問は臨床現場では重要になる事も多いですが,発言者以外も妥当性を評価しないと誤った臨床判断につながる恐れがあり充分な吟味が必要です。
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