【執筆】壊血病のケースレポートがCureusに掲載されました

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“A Case of Scurvy Associated With Intracerebral Hemorrhage in a Patient With Alcohol Use Disorder”というタイトルのCase reportがCureusからpublishされました。

Just a moment...

症例経験から論文化までの流れを振り返りたいと思います。

 

A Case of Scurvy Associated With Intracerebral Hemorrhage in a Patient With Alcohol Use Disorder

 

症例

ICUで経験した,被殻出血を契機に壊血病の診断に至った症例です。入院時は意識障害のためほとんど病歴聴取はできませんでしたが,周術期マネージメントを行う中で

①アルコール多飲歴
②血小板,凝固異常を伴わない出血傾向
③齲歯,歯牙欠損,歯肉炎などの口腔内所見

などから壊血病を上位鑑別に挙げました。

食事と内服によるビタミンC補充によって出血傾向は改善し,意識レベル改善後の病歴聴取で極度の偏食が判明し,後日判明した血清ビタミンC低値も一助となり最終診断に至りました。

個人的な一番の学びは

詳細な身体診察は時に重要な病歴を補う

ということです。これは病歴聴取が困難なER/ICUでの重症患者対応において重要なメッセージだと思っています。
本症例も全身の易出血性から脳出血は出血傾向の一部なのでは?というパラダイムシフトで壊血病を疑を疑ったことから,「偏食があったのではないか」という推察に至りました。

壊血病は稀に脳出血の原因となること,壊血病は病歴,身体所見から想起する臨床診断ですが,病歴聴取困難な患者でも壊血病を発症している可能性があること,ビタミンC補充は安価で即効性があるため,早期の鑑別想起,診断的治療が症状改善に寄与する,などメッセージ性のある症例だったため症例報告することにしました。

 

自分が壊血病を診断したのはこの症例が初めてでした。以前,飯塚病院総合診療科で短期研修をしていた時に清田雅智先生がレクチャーで

「壊血病は決して過去の病気ではない」

と繰り返し強調されていたのが印象的で,頭の中の鑑別診断リストに留めていたのが功を奏したと思います。まだ見ぬ疾患や病態に備え,日々学んだ知識を臨床で発揮できるよう整理する重要性も再認識しました。
(当時の清田先生のレクチャースライド達は壊血病に限らず,今でも資料として参照しています)

 

日本集中治療医学会学術総会

日本集中治療医学会学術総会に演題応募したところ,なんと優秀演題セッションに選出されました。これは完全に青天の霹靂でしたが査読者のフィードバックからは,集中治療領域で壊血病の症例報告が極めて珍しかったことに加え,診断プロセスの教育的価値が評価されたようです。

自分にとっては初めての全国学会での主要セッションだったため,非常に良い経験になりました。発表時間が7分間と通常の学会発表よりもディスカッションに時間を取れる配分だったため,ICU指導医や脳神経外科の先生方とディスカッションを重ねていく中でメッセージが明確になっていき,今回のケースレポートのディスカッションの雛形が完成しました。

NEJM

Day 1: Submit
Day 3: Defer → Resubmit
Day 4: Reject

ブログタイトルからお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが,私はNEJMの名物企画Clinical Problem-Solving (以下,CPS)の熱狂的なファンです。

CPSは診断推論形式の症例報告で,症例提示(太字)の合間に臨床医の思考過程(細字)が描写されていて疾患の知識はもちろん,診断プロセスまで学べるという非常に教育的価値の高いシリーズです。

以前徳田安春先生の記事で,CPSは仲間内のネットワークから掲載する症例を決めているという情報を得ていたものの,年に1,2例くらいは米国外からの症例報告があります。また,「トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法」著者の先生が2020年にホウ酸団子によるホウ酸中毒の症例を掲載しており,診断プロセス全体がメッセージになる症例ならチャンスがあるのではないか,と思い立ってチャレンジしてみました。

いざ書き始めてはみたものの特殊な形式のケースレポートで,周囲にCPSへの投稿経験のある人が一人もおらず,相談する由もなかった私はひとまず通常のCase reportの規定に沿った原稿を完成させて英文校正に提出しました。
すると,校正をお願いしている先生から「これ,推論パートないけど大丈夫?」とご指摘をいただきました。

NEJM 国内版のとあるページにはCPSについて以下の記載があります。

症例の情報が、実際の診療過程のように、順にNEJM編集委員の臨床医に提示されます。 臨床医はそのたびに推論を述べるので、一緒に考えることができます。 最後は著者の考察で締めくくられます。

私はこの記事を読んでから「CPSの推論パートは編集部側が追記してくれる」と認識していました。編集部へ問い合わせを行ったところ

「CPSは推論パートも含めて,論文の全編を著者が執筆してください」

と返信があり,その時点で重大な勘違いをしていたことに気付きました。これは執筆を開始する前に確認しておくべきでした。。。

その後無事推論パートも書き終え,校正を完了しいざ投稿,結果は清々しいくらいに迅速なeditor kickでしたが,今後もCPS掲載に値するような教育的なCase reportを書けるようチャレンジを続けていこうと思います。

 

NEJMと壊血病
直近30年を振り返ると数年に一回は何らかのセクションで取り上げられており
「壊血病は忘れた頃にやってくる」
というNEJMから読者へのメッセージを感じます。直近は2021年のCPSが最後なので,数年以内にまたImages in clinical medicineなどに掲載されるかもしれません。
CPS: 2編
A Deficient Diagnosis | NEJM
Inadequate Support | NEJM
Case Records of the MGH: 3編
Case 39-1995: Scurvy | NEJM
Case 23-2007 — A 9-Year-Old Boy with Bone Pain, Rash, and Gingival Hypertrophy | NEJM
Case 22-2018: A 64-Year-Old Man with Progressive Leg Weakness, Recurrent Falls, and Anemia | NEJM
Images in clinical medicine: 3編
Skin Findings in a Patient with Scurvy | NEJM
Scurvy | NEJM
Mucocutaneous Manifestations of Scurvy | NEJM

 

Cureus

Day 1: Submit
Day 2: Defer
Day 3: Resubmit
Day 11: Revise
Day 18: Resubmit
Day 21: Accept & Publish

NEJMへの投稿後は臨床業務が多忙を極め,完全に投稿作業が滞っていました。
実は他に2,3誌投稿先を検討していたのですが,諸事情により年度内に論文を形にする必要が生じたため,採択率とdecisionの速さに定評があるCureusへの投稿を決意しました。
(重症疾患,特に集中治療領域はケースレポートを受け付けている雑誌が少なく,投稿先の検討にも難渋しました。)

Peer review, not peer rejectionに基づいた建設的なReviewer’s commentに対して何点か修正を行い無事Acceptに至りました。とにかく迅速な出版プロセスでした。
また別の記事をまとめようと思っていますが,自分は今後もCureusをCase reportの投稿先として検討すると思います。

 

まとめ

原稿の執筆については以前紹介した「トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法」を繰り返し読みながら作業を進めていきました。今後もこの本とは長い付き合いになりそうです。

 

Draft執筆開始からNEJM投稿までに4ヶ月,その後約半年の塩漬け期間を経て原稿修正からCureus投稿には1週間程度を要しました。当然NEJMのeditor kickは想定していたのですが,臨床業務の忙しさにかまけて投稿作業を中断してしまったのは反省点です。今後の執筆活動ではインターバルを詰めて行けるよう計画的に投稿作業を行っていく必要性を感じました。
スムーズな投稿プロセスについて学ぶためには以前紹介したゆっくり救急医先生の本が参考になると思います。

また近年,栄養障害としての壊血病の存在が再認識されつつあるように感じています。2000年代は年間20本程度だったのが2023年は79本と10年間で年間報告数は4倍近くまで増加しており,現に私がNEJMへの投稿作業を開始した後にPubmed上だけでも実に30編近い論文がpublishされていました。壊血病と脳出血の関係について言及している文献は確認できませんでしたが,論文執筆にはスピード感も重要と感じました。

 

また,今回の執筆にあたって調べた医学知識についてもまとめていきたいと思います。

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